きのもと歯科

将来を見据えてお口の健康を守るためには、定期的なメンテナンスによる予防歯科がとても大切です。
「この歯はなんとか残せませんか？」といったご相談を受けることがあります。
歯の状態によっては保存が可能な場合もありますが、残念ながら抜歯を選択せざるを得ないケースも少なくありません。

歯を残すことができた患者様には、これまでの経過を丁寧にご説明し、再発を防ぐためにメンテナンスの重要性をお伝えしています。
すると多くの方が、「これからは悪くならないように通います」と予防の意識を高めてくださいます。

実際に、大学で10年以上にわたりメンテナンスに携わる中で、以前なら抜歯が必要だったような歯でも、適切なケアを継続することで健康な状態を保てている患者様が多くいらっしゃいます。
この経験からも、予防の力を強く実感しています。

虫歯や歯周病が発症してから治療を行うだけでは、根本的な原因を見逃してしまいがちです。
「治療したのに、また悪くなった」と感じるのは、問題が起きてからの対処だけに偏っているからかもしれません。

火事に例えるなら、消火活動が重要なのはもちろんですが、日頃から火の元に気を配ることで被害を最小限に抑えられます。
歯の健康も同様に、症状が出る前から注意を払い、日常的なケアを心掛けることが何より大切です。

痛みや不調が現れてから歯科を受診するのではなく、そうした状態にならないよう未然に防ぐことが、本来の歯科医療の目的であると私たちは考えています。

歯科治療では、ほんのわずかなズレが治療結果に大きく影響することがあります。
そのため、0.1mm、場合によっては0.01mm単位での高い精度が求められます。

しかし、肉眼での確認には限界があるため、精密な治療を行うには拡大視野が欠かせません。
1980年代からは拡大鏡（ルーペ）が使用されてきましたが、それでも見える範囲や解像度には制約がありました。

1990年代に入ると、欧米を中心に顕微鏡（マイクロスコープ）を使った歯科診療が広まり、治療の精度が大きく向上しました。
医科分野では脳神経外科や心臓手術など、全身麻酔下で動きの少ない状況において、顕微鏡の導入によって安全性と成果が飛躍的に高まりました。

一方、歯科では患者様が動く可能性があり、さらに治療部位は複雑で立体的です。
そのため、顕微鏡を使いこなすには専門的な技術と訓練が必要となります。

歯科用顕微鏡は国内でも徐々に導入が進みましたが、幸いにも1997年から顕微鏡治療に取り組んできた実績があります。20年以上にわたる臨床経験を通じて、日々の診療に活用してきました。

顕微鏡治療の普及にも力を入れており、講演会や実習会を通じて多くの歯科医師にその重要性を伝えています。
実際に顕微鏡をのぞいた歯科医師からは、「こんなに細かく見えるとは思わなかった」と驚かれることがよくあります。見えなかった部分が明確に見えることで、治療の質も大きく変わります。

精密に見ながら処置を行うことで、治療の確実性が高まり、結果として患者様の歯の健康をより長く守ることにつながります。見えることで得られる安心と信頼が、顕微鏡治療の大きな価値です。